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競馬はいい馬場状態で行うのが理想だが、天気ばかりは何ともしがたく、道悪競馬は避けられない。
今回は芝の道悪をテーマにして語ろう。
シンボリルドルフは5歳時、重馬場のジャパンCを勝ったように、良馬場でも道悪でも強かった。
どんな馬場状態でも勝つのが真の名馬なのだ。
彼にはそんな最大級の賛辞が与えられた。
実際にその通りだと思っている。
道悪を克服するか否かは、闘争心というものが大きく影響するからだ。
まず基本的なことからいこう。
道悪巧者とか重上手という形容がある。
言い回しとしてはそうなるのだろう。
それはそれでいいが、誤解してほしくないのは、道悪はどんな馬でも嫌い、苦にするのだ。
上手な馬はいないといっていい。
だから、道悪ではいかに我慢して走るかが勝負のわかれ目になる。
ただし、ヒヅメが小さめで立っている、跳びが小さくて、かき込むフットワークのタイプは克服するうえで優位ではある。
道悪には滑る馬場、力のいる馬場と2通りあり、後者の条件では馬力に富んだ馬が有利になるのは確かだ。
それでも道悪競馬では、肉体的なもろもろの要素以上に精神的なものが重要なのだ。
2週前の目黒記念は重馬場で行われ、ボクの乗ったキリパワーが勝った。
この馬はスピードと瞬発力に優れ、いい馬場状態でこそ持ち味がフルに生きる。
道悪をこなしたのはパーソロン産駒ならではの頑張り屋の性格がものをいったからだ。
シンボリルドルフも同様。
滑ったり、脚を取られてもひるまない勝負根性があったからこそドロンコのジャパンCを勝てたのだ。
道悪では騎手の役割も大事である。
馬に並はずれた勝負根性が備わっていても、ずっと泥をかぶりっぱなしでは走る気をなくしてしまう。
そのために、騎手はうまい位置取りをしなければならないが、時には意識的に泥をかぶらせるケースもある。
昭和46年にカネヒムロで不良馬場のオークスを勝った時だった。
パーソロン産駒でやはり頑張り屋の彼女はファイト満々、それを表面に出しすぎるため、わざと泥をかぶらせることで、落ち着かせることができたものだ。
騎手の役割はもうひとつある。
道悪ではどうしても走りが不安定になるので、騎手が少しでもフットワークを安定させてやる必要がある。
具体的なその方法として、支点になるハミを道中軽くかけ続けてやるのだ。
これは馬の方に精神的な融通性がないとできない芸当で、前半からハミをかけると夢中で走ってしまうタイプには向かない。
融通が利く馬なら跳びが大きかろうが、ハミに頼りながら、確かなフットワークで道悪を乗り切ってしまうことがある。
ハミを通して騎手と馬との間には一体感ができるのと同時に、道悪では馬にとって安心感が生じる。
それがフットワークの安定につながるというわけだ。
クロッカスS(4歳オープン)でボクが乗ったアサカアルコオーは跳びが大きいタイプで、道悪はまったく不得手のタイプ。
それでも、軽くハミをかけて、うまく乗ればのつもりで臨んだが、馬の気がガムシャラに一直線といった感じで、結局6着に終わってしまった。
ドロンコ競馬が続くとうんざりしてしまうが、馬は騎手以上にイヤだろう。
馬、特に若駒にとって極悪馬場で打ちひしがれると、のちのちまでその影響が尾を引くことがある。
アメリカでは、ほとんどのレースの出馬確定が当日朝で、それ以後も病気以外の理由で取り消すことができるし、ヨーロッパも同じやり方だと聞いている。
だから、気持ちの不安定な馬は道悪の時など、その後の悪影響を考えて取り消すことがよくある。
日本にそうした制度はない。
道悪の他にも、装鞍→パドック→馬場入場→発走と、スタートするまで外国の倍もの時間(通常70分)がかかるシステムがあるなど、忍耐強い馬でないと成功を望みにくい背景がある。
後遺症を受けずにすむことよって、素質を順調に伸ばすことができるのだ。
さて、弥生賞でボクはアンシストリーに乗る。
天気予報では中間、またしても雨があるようだ。
アンシストリーのフットワークはかき込む感じ。
まだ実際に道悪を経験してはいないので、希望的観測の域を出ないが、道悪をこなせるはず。
気持ちの方もしっかりしているようなので、楽しみにしている。
1頭強いの(サクラホクトオー)がいるが……。
(2月28日)間にはかなり広い空間の部分があり、その歯のない部分にハミをかける。
騎手の手綱さばきは、こぶしから手綱を通じてハミに伝えられ、馬を意のままに動かすことができる。
パーソロンをテーマにした時、成功のひとつの理由に逆境に強いと書いたが、ノーザンテースト産駒も同じような性格を持っている。
その我慢強さが最大限に発揮されるのが、競り合いになった時だ。
ボクが乗って知られているところでは、昭和58年のオークスを勝ったノーザンテースト産駒のダィナカール。
このレースは歴史的名勝負といわれているように、1着をめぐって5頭が写真判定の対象になった。
もうダメかなと思わせながら、競ると絶対に抜きにかかろうとする闘志が伝わり、身震いしたものだ。
ノーザンテースト産駒には写真判定はおまかせといえるくらいの勝負強さがある。
母系の影響も考える必要があるが、ノーザンテースト自身の良さは他にスピード、瞬発力が挙げられる。
ひと口にいえばマイラー色が強いのだが、パーソロン同様、騎手の意のままになる面があるので、スプリンターに育てようと思えばスプリンターになるし、スティヤーに育てようと思えばそうなるようなところがある。
調子をつかみやすいという特徴も強調しておきたい。
パーソロン産駒は調教が平凡でも実戦で変わることがよくありいいウソをつくと表現したが、ノーザンテーストはウソをつかないといっていい。
調教が良ければ実戦でもいいし、悪ければ実戦でもダメというわけだ。
最後に切り札ともいうべき成長力。
ノーザンテースト産駒は3度変わるとまでいわれるように、驚くほどの成長をみせることがある。
アンバーシャダイ、ギャロップダイナなど、若い頃平凡だった馬が古馬になって信じられない活躍をしている。
ボクが乗るスルーオダイナも典型的な高度成長例である。
昨年前半まで並の馬だった彼は今、天皇賞を十分狙える手応えを与えてくれるまでに成長しているのだ。
アメリカの名ステイヤー、スルーオゴールドの近親にあたる母系に加え、万能のノーザンテーストという配合。
こうした血統面を重視した関係者のステイヤーとしての歩ませ方が大いに功を奏しているといえるだろう。
阪神大賞典は痛恨の2着失格。
スルーオダイナには実に気の毒なことをしたし、ファン、関係者にも迷惑をかけた。
自分の甘さを反省している。
3週間、実効6日の騎乗停止は実につらいが、素直に受け入れざるをえない。
ゴール数十メートル前だったろうか。
そのあたりでボクは失格を予感した。
内にいたイナリワンとの競り合いから抜け出した途端にイナリワンの進路に入ってしまった。
思わずチラと後方をみた時、K騎手が立ち上がる形で手綱を絞っていた。
「まずい」と思ったが、もう手遅れだ。
イナリワンとは残り300メートルあたりから並ぶかっこうになった。
ボクは左ムチを使っていたが、スルーオダイナは内にモタれ気味になったので、右ムチに切り替え、何とか体勢を立て直すことができた。
だが、その矢先のアクシデントだった。
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